夢が夢なら別にそれでもかまわない。
萌え立つ霧と密の流れる波をたゆたう姿。
生きているうちに体験したいことが、たくさんある。
パンをくわえた転校生と曲がり角でぶつかる。
メガネをとったら意外と美人。
冥土の土産をあげたりもらったり。
車に轢かれそうな子犬を助ける。
おぼれてる子犬を助ける。
新幹線に轢かれそうな子犬を助ける。テリー。
捨てられた子犬に傘をあげる。子犬ばっかり。
奥義に目覚める。なにかの。
ケガをおして決勝戦に強行出場。
引き出しから猫型。
空から女子。
目が覚めたらバイストンウェル。
コイツ・・・動くぞ?
などなど。
オレもいくつか体験しました。
「ケンカなんかやめろよ!」とケンカごしで絶叫した時はなかなか気持ちよかった。
その後、大変なことになったけれども。
好きな女の子に「最低!」って言われたときもチンコがたった。
その後、号泣したけれども。
そして、ある日のサッカー終わりの、駅までの帰り道。
「やぁぁー」
子供の泣き声が聞こえてくる。
「あっくんのぼうしとってー」
車道に転がる、麦わら帽子。
これは、「間違って手を離してしまった風船を取ってあげる」に匹敵する出来事。
よーし。
かっこよく帽子を拾い、かっこよく子供に帽子をかぶせ、かっこよく「もうなくすなよ」って言って、かっこよく立ち去らなければ。
ので、まずかっこよくガードレールを飛び越し、かっこよく帽子を拾う。
つった。
ふくらはぎが超つった。
歩けない。
歩けないのでマナゴに拾った帽子を託した。
その後、マナゴがなんて言って返したかなんてしらない。
子供がオレのことをどんな目で見てたかもしらない。
悲しくて、見れなかった。
ただ、悲しくて。
悲しくて、悲しくて、悲しくて。
帰ってきたマナゴが言った。
「ツヅクさん、かっこ悪いっス」
ああ、かっこ悪いさ。
遠くから見ていたフジタが言った。
「オマエ、かっこ悪いな」
ああ、かっこ悪いさ。
いいんだ。
オレは、これで、いいんだ。
オレは、広いライ麦畑で遊んでいる子どもたちが、気付かずに崖っぷちから落ちそうになったときに、捕まえてあげるような、そんな人間になりたいんだ。
案の定、その日の夕方、府中のライ麦畑で3人捕まえた。
そして、ちゃんと逃がした。
きちんとキャッチアンドリリースするのが、ちゃんとしたキャッチャーインザライの条件。
よくわからないままに。