たったひとつのさえたやりかた。

えー先日、フジタさんの結婚式がありましてね。
良い式だったとか、ごはんが美味しかったとか、そんなことは私にはわかりません。
終始、様々な部門から追い込まれ、なにひとつ楽しめない。
さすが、さすがのチキンハート。
僕のまわりであったことだけ、書いてみる。


決戦前日

最終ミーティングをタナカの家で開催。


「集まってもやることないじゃないすかー」


そう、正直、司会のタナカとオレ以外打ち合わせることはない。
けど、どうでもいい話し合いの中で、細かいことで気がつくことはある。
ブレインストーミングと相互理解の補完。
ミーティングって、そういうものだろ?
そうだと言ってよバーニィ
まーみなさんお忙しい中集まっていただくので、心苦しい限りです。
そんなみんなにタナカより連絡。


「動物病院行ってくるから、少し遅くなる。鍵は渡しとく」



タナカが?
動物病院??
何も飼っていないのに???
前々からおかしいとは思っていたけど、やっぱりアイツは人間じゃなかったのかしら。


誰もが、山ほどのはてなを頭に抱えながら、タナカに聞こうとはしない。
だって、タナカなんだから。
なにがでてくるかわからないから、深くは突っ込まない。
だって、こわい。


待つ。
漫画を読んで待つ。
ワンピース60巻を読んで待つ。
ジャイアントキリング17巻を読んで待つ。


来ない。
ツダが寝てる。
フジイは帰った。


連絡も来ない。
ツダが電話してもでない。
オレがメールしても音沙汰がない。


4時間後、何回目かの電話でタナカがやっと電話にでる。


「オレに似合うスーツが見つからないヨー☆」


舞踏会にでるお姫様?
そう、タナカユージは、とってもおしゃれさんだったのだ。
そして、まだまだ自分に合うスーツ探してみるということなので、今日のミーティングは中止。
もう、怒ることも、突っ込むことも面倒だ。
よいスーツが見つかるといいよね。


さぁ帰ろう。
上を向いて帰ろう。
涙がこぼれないように。


決戦前夜

あー違う、帰れないんだ。
今日は地元の仲間達との楽しい飲み会。
ボクの第二の故郷、三軒茶屋のステキな飲み屋で開催される。
もう、タナカのことは、忘れよう。


「ごめん、遅れる」


中学校時代、生徒会長を務めたアイツからの連絡。
なにやってんだよ、もう。


「みんな遅れるみたいだから、30分開始を遅らそう。
オレはみんなを渋谷で待ってる」


小中高とゴリラ役を務めたマジゴリラからのゴリラメール。
えーもう出ちゃったし、着いちゃうゴリラ。


まーいいか。
ブラブラして、約束の時間に入店。


来ない。
お店で流れてるDVDが一本終わっても来ない。
店長さんが気を使って挨拶しに来ても来ない。


「まだ来ない。おそらく1時間後くらいになる」


ご立腹のゴリラメール。
あのゴリラを怒らせて、みんなゴリラ無事なんだろうかゴリラ。


ここで、一番最初に遅れるメールをくれた生徒会長が最初に到着。


「あれ?みんな、なんでいないの?」


そうだよな、チカツ・・・。
オマエだけだよ、ちゃんとしてんのは。


1時間半後、やっとみんなが店に来た。
特に謝罪もなく、大爆笑で乾杯。


そうだ、忘れていた。
そういや、いっつもこんなだった。
飲み会やっても、麻雀やっても時間通りに始まることなんてない。
予定通り開催されることすら、マレだった。


これには、オレも大爆笑。
そうだ、オレがバカだったのだ。
遅れてきたNGIに、ダイちゃんがおもいっきり味噌汁をこぼしたのを見て、強くそう思った。
ダイちゃん、大爆笑。
NGI、大爆笑。
店長、苦笑い。


ちなみに、集まった店は↓です。
店長がきさくで、メシがマジうまい。
個室っぽくて、そんなに混んでないのもステキ。


しかし、アイツの周りって、こんな人間しかいねーんだなぁ。
それって、すごく幸せなことのような気がする。
気がするけど、オレにはいいことなどいっこもない。


帰ろう。
走って、帰ろう。
涙が乾いてしまうように。



決戦早朝

家に帰っても3悶着くらいあったけど、それはもう忘れよう。
会社の社長から実家の親、もちろんフジタにまで満遍なく怒られる夢を見た、決戦当日の朝。
多少の打ち合わせをしたいので、早めにタナカの家に。


もう、ショックすぎて忘れたけど、オレがタナカの家に行ったら関係ないことをしていた気がする。
もう、いい。
もう、いいよね?


ところで、動物病院ってどういうこと?


捨て猫を拾った」


平成なのに?


「病院で治療して、その後すぐに逃げられた。」


なにやってんの?


「悔しいから、猫をくれる人を探している」


もう、やだー。
天才すぎて、ムリだよー。
早く着替えて行こうよー。
あと、絶対コイツ拾った猫が満月の夜に女の子になるの期待してたよー。
ねこねこ幻想曲狙いかよー。


しかも、



カジュアル。
圧倒的なカジュアルさ。
アンジャッシュの渡部よりカジュアルな、イングランドの学生がそこには居た。
カジャアルすぎるよ!タナカさーん!


「アローズの店員さんのお墨付き」


カンケーねーよー。
アローズさんはただのおしゃれアドバイザーだよー。
もう、オシャレすぎるよー。


オサム君の車が駐禁切られそうになったりしたけど、それも、もういい。
もういこう。
早くこの一日を終わらせよう。

決戦直前


「ツヅクさーん、なんでそんなにいっぱいいっぱいなんですかー」


そりゃーオマエラがのん気すぎるから、オレが過剰にピリピリしてんだよ!
ミーティングすっぽかして、MCがのん気にお買い物とかな!


「オレ、だんだん楽しくなってきた!」


イングランドの留学生MCが全開になりだしたぜ!
うっひょー!


        *'``・* 。
        |     `*。
       ,。∩      *    もうどうにでもな〜れ!
      + (´・ω・`) *。+゚
      `*。 ヽ、  つ *゚*
       `・+。*・' ゚⊃ +゚
       ☆   ∪~ 。*゚
        `・+。*・ ゚ 

到着。
ステキな式場に到着。


ステキな式場で、ステキなスタッフがステキに忙しそう。
がんばれ、スタッフ。
オレタチもがんばる。


打ち合わせの後、セッティング。
モニタチェック、場所チェック、そういやタイムスケジュールは未だに教えてもらってないぞ・・・。


あ、NGIから電話。


「案内状忘れてきちゃって場所がわからない」


バーカバーカ。
バーカバーカ。
バーカバーカ。
悪いけど、ツダさん迎えに行ってください・・・。


NGIも朝起きたらスーツが着れなくて、超カジュアルだったけど、それももはやどうでもいい。


式場の人と段取りも概ねオッケー。
ゲーム参加者の練習も終わり、もうオレがやることはない。


ゲームの流れ。
新郎新婦の友人各四名づつが参加。

司会がお題を出す。そのお題を回答者がペンタブで書いたのをモニタに出して、新郎新婦が当てる。

当てたら次の人にリレー。ただし、バトンは巨大風船。

爆破した時点で持ってる人が負け。負けたら新郎新婦に挨拶をお願いする。


後は司会の腕次第。
オレは、緊張だけしていればいいやー。



「もうダイジョブっすよーやることないですよーツヅクさーん」


オレは、人生で初めて思った。
オレは、人生で初めて欲した。


売ってねぇかなぁ!緊張感!!

決戦開始

天気良く。
ステキな式場でステキな式。
とにかく、おしゃれ。
やることなすこと、とにかくおしゃれ。
あれ、ゴミが落ちてる、と思って拾ったら、それがおしゃれだったくらいのおしゃれレベル。
こんなにおしゃれなら、藤木直人上田晋也が座ってるんじゃないかと思ったら、やっぱり座っていた。
こんなにおしゃれなら、おしゃれ泥棒がやって来るんじゃないかと思ったら、やっぱりやって来た。
そのくらい、おしゃれ。
おっしゃれー。



式の始まりで、この場所がどんだけ由緒正しい場所なのか説明があり、本気で風船爆破中止が協議される。
反おしゃれテロ的な意味で、「やってやろう」ということに。
そして、ここに来て、ツダが、調子に乗り出す。
ずーっと『オチはオマエだ』といじられて来たが、もう出番がないと判断したらしい。


「ツヅクさーん、もっとサプライズしましょーよー」
「誰のとこで爆破するのか、オレ次第なんすよねー」
「NGIさんのとこで爆破するのが一番おもしれーかなー」


この男、本当にやられ役というか、連続殺人鬼が来たら真っ先に殺されるキャラ設定だよなぁ。
でも、確かに。
NGIさんはとにかく面白いからな。


「もし、オレが負けたら、ツヅクにふる」


え・・・?


「フジタくんと一番長くいっしょにいるオマエに、ムチャブリする」


え・・・ちょっと待ってくださいよ。
一番長く一緒にいるの、オレじゃなくてマー君だし!
NGIさんこういう時、ちゃんと面白くするじゃないですか!!
逃げたりなんか、しないじゃないですか!!?


「ムリ。この流れではオマエしかいない。わかるだろ?」


・・・確かに、わかる。
あのゴリラなんか怒ってるし、NGIさんなら自然な流れで面白くオレにふるんだろうなぁ。
ちくしょう・・・これは、もう自分の仕事は終わったとどこか安心していたオレへの罰か・・・。
なんてこった・・・せめて・・・なにかミラクルが起きるように、ものすごいムチャをふってくれれば・・・。


「そうっすよーツヅクさんがやるのがいいっすよー」


も う 、 お れ は 絶 対 に ツ ダ を 許 さ な い。


とにかく、負けないで、NGI!


さて、いよいよゲームが始まります。
始まる5分前に、以前渡した進行表に赤ペンを入れ始めるタナカ。


い ま そ れ や ん の ?


そのタナカの姿が、オレ的には、この日一番面白かった。


そして始まる風船爆破ゲーム。
タナカの司会で始まる風船爆破ゲーム。
ムチャと危険が大好きな、アイツの仕切りで進んでいく危険な風船爆破ゲーム。
もう、あとは流れに任せるしか。


だが、恐ろしいことに、そこに流れるような司会ぶりのタナカの姿が。
まータナカならやれるんだろーなーと予想していた30倍はうまい。


なんだ、コイツ。


流れでそっちの方が面白いと思えば、ルールを微妙に変えてくる。
新郎新婦があてるはずだったのを、会場全体で回答させたり。
お題の時にもう先にヒントを言っといたり。
回答者いじりも、会場いじりも、まさに絶妙。
いやーすげー。
子供大喜び。
タナカすげー。
マジでちょっと泣きそうになるくらいに感動した。



そして、風船爆発。
おー男子友人代表挨拶は、ワタヒキさんかー。
そこで、なぜか、地元友人のテーブルから自然に湧き上がるコール。


「ツ・ヅ・ク!ツ・ヅ・ク!」


3年ぶりに、血の気が引いていく間隔を味わう。
もう、死のう。
もしくは、脱ごう。
もう、式がどうなろうと知ったことではない。
追い詰められたら、ちんこ出す。


ち・ん・こ!ち・ん・こ!


しかし、素晴らしく幸運なことに、泥酔しているワタヒキさんはコールに気が付かずそのまま挨拶。
ありがとう!ありがとう!!ワタヒキ!!大好きだよ!!!


終わり際に、そんな一連の流れを見た地元のみんなが一言。


「ツヅク、何やってんの?」


そうっス。
冷静に振り返ってみると、なにもやってないのです。
バタバタしてただけで、なんにもやってないのです。


タナカさんがどうにかしたのです。
車を出したり、人の流れをさばいたオサムくん。
お題を考えたり、カメラを撮ったフジイくん。
ガスボンベ買ったり、雑用に動いてくれたツダくん。
みんな、それぞれしっかりやった。
オレが、ワーワー細かいこと言う必要なんてどこにもなかった。


でも、きっと同じメンツで同じことをやっても、オレは同じように細かいことを言うだろう。
いつでも、落ち着きなく、細かいことを気にして、不安とともに、緊張感丸出しで『段取り八分』。
それが、オレが知ってるたったひとつのさえたやりかた。


も う 、 絶 対 に や ら な い け ど 。
あ と 、 ツ ダ も 許 さ な い け れ ど 。


何はともあれ、無事に終わってよかった。


フジタさん?
オレは、フジタさんを見て、ずーっと思っていたよ。


「アイツ、あんな格好で何やってんだろう」
「アイツ、あんなとこで何やってんだろう」


結局、アイツは、何をしてたんだろうなぁ。
ミホちゃんのステキな花嫁姿と、ステキな感動のお手紙の横で、アイツ、なにやってんだろう。
ねぇ、タナカ?



お幸せにー。