神を見た夜 (やおよろずの、しかも狛犬っぽい)

ライブ?
行かないなぁ。
行く意味がわからない。
形にならない、というか目で見えないものが、よくわからないから。
良い演奏とか、おいしい味とか、よい香りとか形にならないものは、よくわからないんだ。
すげーかわいそうな人間に聞こえるけど、そうなのだ。


ただ、音楽は好きだよ。
歌詞とかの意味を考えたり、歌ってみたり。
何回か死にそうなところを助けてもらったり。
メロディーのことは全くわからないけど。
音符も読めない身で、なんも言えることはない。


けど、ここまで編集技術の進んだ現代じゃ、CDとかでのパフォーマンスが一番いいのは明白じゃない?
だから、小沢健二とかサンボマスターとかOASISとか言われても、そこまで行きたいとかじゃない。
わーオザワさん、CDの百倍ドヘタだわーというネタ的には行きたくなるけど。
そういうことだから、まぁ、ねぇ。
ライブ感とか言われても、オレそういう機能ついてないっぽいじゃん。


まー行かないねぇ。
友達のライブとかくらい?
見たいと思うライブ?
あーあるよ。
マイケル・ジャクソン
動きがさーマイケルでしかできない動きするじゃん。
もう、見れないけど、うん、アレは一度は見たかったなぁ。


そうか、生で見たいと思うのは動きってことだ。
でも、あんまいなくない?
動く本物のミュージシャン。


aikoくらい?



そんなわけで、僕はここにいる。
aikoの彼氏に誘われたので、ホイホイついて来てみた。
この会場でaikoさんへの思い入れのなさで言えば、トップ10には確実に入る、オレ。
それがバレたら怒られたりしないのだろうか。
ましてや、殴られたりしないのだろうか、蹴られたりしないのだろうか。
軽い気持ちでaikoをディスったら、即座にマジゲリしてくるオレの隣のaikoの彼氏。
どうしよう。


「やーい!オマエらのアイドルー!!鼻フックー!!」


とか言ってみたらどう・・・嘘、ホント、嘘。
・・・言っちゃいけないことほど、言いたくなるじゃないですか。
下手な想像で、申し訳ないやらなんやらでムダに追い込まれる33才。
鼻フック34才とお似合い。
・・・言っちゃいけないことほど、言いたくなるじゃないですか。


こういう時はビールなので、ビールで逃げる汚い大人。
この環境で一缶くらいじゃ、全然酔えませんが。


緊張。
サッカーの試合の前くらいの緊張。


aikoも緊張してるよ」


なんだ、その10代アイドルを見る目線。
言ったらベテランアーティスト、しかもライブ主体でもある人が、今更そんな緊張とか。


「すごく緊張しやすいんだって、よく言ってる。いつも、怖いって。
オレ、歌ってる声で緊張してるかどうかわかるし」


へー。
若干マジ彼氏目線発言がキモイけど、へー。
そうなのか。
そうなのか。
アイツ、そうなのか。


「時間だ」


拍手が、鳴る。
早く出てきて、と鳴り響く。
これは、こわい。
嬉しいだろうけど、こわいに決まっている。
なにせ、緊張しいは、始まる前が一番こわいのだから。


ステージにライトが、灯る。
暗幕にaikoの影が映りこむ。
まるで、バレリーナのようなシルエットに、ふるえが来る。
神様みたいな、アラベスク
絶対にシンガーソングライターのフォームではない。


幕が降りる。
くるりと回り。
歌う。
動く。
頭の天辺から、爪先を楽器やら道具のように。
歌いながら、動く。


なんだこれ。
なんだこれ。


あぁ、そうだ。
オレはこれが見たかったんだ。


上がる足。(本当にバカみたいに上がる)
低く、揺れて落とされる腰。(体重の乗ったスイングが可能)
息も乱さず走り回る。(そんなには走り回らない)


ミュージシャンやアーティストやパフォーマーと呼ぶよりは、全然アスリートに近い。
積み上げてきたもの、真摯な姿勢、越えてきたものなどが動きに溢れる。
そして、選びこんだ言葉やら、深いお辞儀が絶妙に自己満足ではない。
『ライブはお客と私で作り上げる』なんてバカみたいなことを、本気で信じているのかもしれない。


たぶん。
知らないけど。


いやーすげーわ、アイツ。
振り付けとかまったくバリエーションないけど、動きみてるだけでも鳥肌天国だわ。


流石にカブトムシでは、歌でも震えさせられたりもした。
今日はうまく歌えているという彼氏のお墨付きもいただいていた。
いやーうたうたいだわ。
あとは、なんか毒蝮やら彦摩呂に迫る勢いの、ベテランの客いじり具合。
吉本の中堅あたりには大体勝てる。
勝てるのに、バラードになったら、直前の笑いの余韻は残さない。
スッと、ポジションに入る。
そんで、歌う。
息も切らせず、歌う。
歌うことを、一切犠牲にしないで、楽しく激しくできるのは、鍛えた結果なのではないだろうか。
どうなのだろうか。


また、おそらくは、立体に起こしたあの子の方が、写真やらテレビよりだいぶカワイイ。
結局、カワイイってことだよな。
だいぶ、奇跡的に。


「そういや、チケット代金いくら?」
「3億円」


まー3億円だわ。


こうなると、ファンになったりする流れなんだけど、それはない。
エヴァンゲリオンは好きだけど、エヴァンゲリオン好きはキライ。
少女マンガは好きだけど、少女マンガ好きはキライ。
オレが一番だと思いたいので、ここにいる17000人を倒さなきゃいけないと思うと気が遠くなる。
なによりその17000人の頂点に立つ、俺の隣にいる aikoの彼氏には、一切勝てる気がしない。


だから、今まで通り、PVみたりCD買ったりすることにしよう。
今までよりは、思い入れは、強く持ち。


ねぇ、オサム君、オレわかったことがあるよ。


「なに?」


aikoって腰を落して歌うじゃない?なんか潜るみたいに体揺らしたりさ?


「ああ」


あれ、オレが歌う時の動きにそっくりなんだ。


「訴えるわ」


訴えられるそうです。